大学受験の頃
うちのじいさんが、脳軟化症(今でいう脳梗塞)にかかって、老人ボケ(当時は認知症と言う言葉はなかった)になった。言っちゃなんだが、飯を何回も食べようとする、徘徊する、とうとう排泄までできなくなった。
うちのばあさんは、かなり良家の出だったので、あんまり何もしない人だった。
確か、ばあさんのばあさんは大名行列を見たことがあるらしい。
江戸時代は案外近いものだと思った。
私は高校3年生で、一応大学受験するつもりだったから、結構勉強が忙しい。
すると校内放送で呼び出される。ばあさんは高校の昼休み頃を狙って、「じいさんが警察に保護された」と言う。
私は「じぁあ、学校の帰りに警察に寄る」と言うと「警察に迷惑がかかるからすぐに行け」と言う。
昼からも授業があるのだが仕方がないので早退して警察に行く。
また、学校が終わって家に帰ってくると、ばあさんは「帰って来るのが遅い」という。
じいさんが粗相をしたらしい。結局、ばあさんに怒られながら掃除をする。
「なんで俺が怒られながら掃除を....」と思うが、ばあさんは文句は言うだけで何もしない。
じいさんは受験の10日ぐらい前に亡くなった。ばあさんはわざわざ自宅で葬式をした。
受験の数日前に納骨したが、私と私のいとこの兄ちゃんの二人だけだった。
数日後、私は大学に通ったが、ばあさんは「じいさんが大学に通してくれた」と言っていた。
いや、違う。
絶対に違うと思う。